クールな社長の溺甘プロポーズ



「昨日はいきなりなにかと思ったけど、照れ隠しだったんだね。もう、彼氏いないなんて嘘つかなくてよかったのに」

「あの、柳原チーフ……」

「澤口の結婚嬉しいよ。本当におめでとう」



特に柳原チーフは涙ながらに自分のことのように喜んでくれ、その姿に、そこまで私を思ってくれているなんて、とつい感動してしまう。



が。待ってほしい。

そもそも私は結婚しないし、大倉さんは彼氏じゃない。全て誤解だ。



「あの、その話なんですけど……」



ところが、結婚話を信じて疑わない満面の笑みの皆と、わざわざ用意された大きな花束を見ると、とてもじゃないけれど言えない。



いや、言わなくちゃいけない。否定しなくちゃいけない。

けど、でも……やっぱり言えない。



「あ……ありがとうございます、あはは」



引きつった笑みで花束を受け取ると、その場は大きな拍手に包まれた。

あぁ、これが本当に恋人にプロポーズされたうえでの出来事だったらとても嬉しいだろう。



みんな、嘘ついてごめん……!

心苦しさに胸を締め付けられながら、私は必死に笑顔を作った。





それから一日中、私の周りはお祝いムードに溢れていた。

帰宅時間帯のロビーというのが目立ったのだろう。

先輩、後輩、上司、部長に次長についには社長、おまけに違うフロアの一度も話したことのない社員や同じビル内の他社社員まで。

行き合う人全員に『結婚おめでとうございます』の言葉をかけられた。



「……ありえない……」



その対応に心身ともに疲れ果て、仕事を終える頃には私はグッタリと自分のデスクに突っ伏していた。


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