クールな社長の溺甘プロポーズ
私のイメージで、カクテルまで用意してくれていたなんて。
きっと、おいしいと感じられたのは味だけが理由ではないと思う。
自分のためにここまでしてくれた、考えてくれた。そんな大倉さんの気持ちも、あるのだろう。
こういう手で女性を落としているのだと思うと、ほだされる自分が悔しいけれど。
でも、嬉しいという気持ちは事実だ。
「……気が強い、は余計よ」
「だが、満足してもらえたようでなによりだ」
そう言ってウーロン茶を飲む彼が、また憎らしい。
なにをどうしても、大倉さんのほうが常に一枚上手だ。
悔しいけれどそれ以上反論する言葉が見つけられず、私は黙ってまたカクテルをひと口飲んだ。
「どうしてこのお店を選んだの?」
「星乃の好みを考えた時に、そういえば昔澤口さんの家に行った時に魚を飼っていたのを見たことを思い出した。その時澤口さんが『星乃が大切に育ててるんだ』って言っててな」
ということは、もう軽く二十年は前のこと。
たったそれだけのことを今でも覚えているなんて、驚いてしまう。
「大倉さんは随分記憶力がいいのね」
「星乃に関することだけはな」
……嘘つけ。
またそう言えば女は落ちるとでも思っているのだろう。そうはいかないんだから。
ほんの少し感じた嬉しさを流し込むようにカクテルを飲む。
「さて、なに食べる?安心しろ、この店は魚料理はないぞ」
「え?私魚食べられるけど?」
なんの話?と首を傾げる私に、彼も不思議そうに首を傾げる。
「そうなのか?子供の頃『かわいいお魚さんを食べるなんて可哀想』と大泣きして魚料理を嫌がった、と以前澤口さんから聞いたんだが」
「わー!!やめてよそんな子供の頃の話!!」
子供の頃のなんとも恥ずかしい話を思い出したくなくて、私は聞こえないように耳を塞ぐ。
そんな私を笑うように、大倉さんは黒い表紙のメニュー表を取り出しこちらへ差し出してくれた。