ぎゅっと、隣で…… 
 祭りは未だ夜が明ける前から三国の火薬詰めが行われていた。

 優一と秀二が並び、黒い法被姿で火薬を詰める男らしい姿を、ため息混じりに女の子達が見ている。

 南朋は優一から目を逸らせるため、秀二の方を見ていた。

 秀二がチラっと顔を上げ、南朋に手を振る。

 仕方なく、いつもの愛想笑いをする。


 優一の姿を見ると、夕べおばあちゃんの言っていた結婚の話を思い出してしまう。


 自分には関係のない事だと、分かっていても胸がざわついて仕方ない。


 三国が出来上がると、午後がら地区回りが始まる。


 トラックの荷台に、三国の花火と一緒に乗り込みお酒を飲みながら回る。

 だんだんと酔いが回ってきて、足元もふらつく。


 南朋は、トラックの荷台の高さに、飛び降りる事が出来ず戸惑っていた。


 その前に、差し伸べるように逞しい手が出された。


 その先を見ると……


「優一兄ちゃん……」 


 南朋は、迷わず優一の手を取ってしまった。



 優一の手に支えられるように、トラックから飛び降りた。


 胸の中が、確かにドキリと音を立てた。


「覚えていてくれたのか?」

 優一は、南朋の手を離さずに言った。


 南朋は、何て答えて言いか分からず、黙って肯くしか出来なかった。


 見上げた先の優一の目は、昔と変わらない暖かさを感じる。


 でも、この手を私が取ってはいけない…… 

 そんな気がして、南朋は優一に何も言えず、祭りの輪の中へ戻った。


 これ以上近づかない方がいいと、南朋は、胸の中で自分に何度も言い聞かせた
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