ぎゅっと、隣で…… 
「ええっ。慰労会まだ途中じゃないの?」


「うん。でも、オードブル不味いから帰って来た」


おどけて下唇を出した優一の、口元のアザから血が滲んでいた。


南朋はさっきは無かったのにと思いながらも、ハンカチを鞄から出し、そっと優一の傷に当てた。


「ありがとう」

優一はちょっと痛そうに顔を顰め、南朋の手の上からハンカチを押さえた。

南朋はそっと手を離した。



「帰ろう」


優一は南朋の前を歩き出した。


 南朋は黙って優一の後ろに続いた。


優一の後ろ姿が懐かしく、優一を頼りに歩けばいいと思った幼い頃を思い出す。



「ふふっ」

思わず笑ってしまい、口を手で押さえた。



「どうしたの?」

 優一は振り向いて南朋を見た。



「集団登校みたいだね」


「懐かしいな…… つうか、集団下校だけどね」


 優一の言葉に、

「あッ、そうか!」

 と言った後、南朋は声を立てて笑い出した。


 優一が振り向き、南朋の笑顔にほっとしたように顔を緩ませた。


 南朋は、ただ可笑しかった。


 優一の言葉に自然に笑えた事が不思議だった。

 こんな風に笑ったの、いつだっただろう? 


 南朋はそんな事を考えながら、さっきまでの辛いと思った気持ちが溶けていくのを感じながら、優一の後を歩いた。
< 40 / 113 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop