ぎゅっと、隣で…… 
 優一は金曜日、会社の廊下で小百合とすれ違った。


「今夜うちに来ない?」


 すれ違う瞬間、耳元で小百合の声が甘く囁いた。


 足を止めるしかない。

 しばらく、小百合の所へは行っていなかった。

 このまま終わりには出来るなどとは思ってはいない。



 チラリと見る小百合の顔は、肯くのが当たり前のように俺を見ていた。


「いや、今夜予定入っているから……」

 優一には断る理由が出来てしまったのだ。



「そう…… 遅くてもいいけど……」

 小百合の声は、納得がいかないと言うかのように冷ややかに聞こえる。



「今夜は無理かな……」

 優一は小百合の目も見ずに背を向けてしまった。


 だが、優一はもう一度振り向き、小百合を見た。



「話があるんだ。時間作るから……」


 優一はそう言って、再び歩き出した。


 覚悟を決めての言葉だった。



 だが、優一は小百合の背中を見つめる鋭い視線に気付かなかった。
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