ぎゅっと、隣で…… 
*****

南朋は、優一に絡まれた腕をじっと見つめてしまった……

南朋の触れる事の出来なかった腕だ……

あまりにも当然のように絡まれた腕に、自分の手をぎゅっと握りしめた。


「こんばんは。どなた?」

と聞く小百合の顔は笑っているが、声は冷やかだ。



「崎宮です。家が近所なんです…… 偶然会って……」

南朋は言葉を詰まらせてしまった。

待ち合わせて居た訳ではいのだから、嘘ではない。

でも、胸の奥がぐっと痛む。



「あらそう? これから私達デートなのよ」

小百合が冷たく笑った。


南朋はさっき、優一が言い掛けた言葉の続きだと思った。

きっと、優一は今夜は一緒に過ごせない事を言いたかったんだ。


 小百合の冷たい声と、冷ややかな笑い方は、南朋を恐怖へと落とし、優一の顔を見る勇気を無くさせてしまった。

どんな顔をしているのか知るのが怖かった。


 南朋は、すぐにここから逃げ出したかった。

優一に迷惑をかけてしまうのが嫌だった。

「南朋」
 
 優一の呼ぶ声がしても、南朋は優一と目を合わせる事が出来なかった、


「優一兄ちゃん。じゃあね」


 南朋は精一杯の作り笑顔で、優一を見ずに手を振った。

 
 南朋は何も気にしてない振りをして本屋を出ると、次から次へと涙がこぼれ落ちた。

 優一と小百合の姿を見たくなくて、振り向かずに歩き続けた。
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