ぎゅっと、隣で…… 
南朋の一番聞きたくなかった言葉だった。


「そうですか…… それで、私に何か?」

南朋は平静を装って、おだやかに返事をしたつもりだったが……


 小百合は、南朋の顔を鋭い目でじっと見た。



「はっきり言うわね。優一は私と結婚すれば、会社の代表取締役になる事は間違いないの。優一は優秀だし、人望も厚いし完璧なの。いくらあなたでもそれは分かるでしょ?」


「はい……」


 南朋は小さな声で肯いた。



「でも、問題はあなたよ!」


「えっ」

 南朋は小百合の厳し声に驚いて顔を上げた。




「あなた、優一の事好きでしょ? 昨日見てすぐに分かったわ」




「いえ、私はただ偶然……」 


 南朋が言い掛けた言葉を、小百合が遮った。



「優一の事思うなら、もう、優一の前に現れないでもらえるかしら……」



 小百合はテーブルの上に置かれたコーヒカップを、カッコよく口に運んだ。
< 56 / 113 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop