ぎゅっと、隣で…… 
家の門の前まで来ると、和希が駐車場で車を洗っている姿が見えた。

南朋を見て、和希が手招きした。




 翔は時々、和希と出かけているようだが……

 南朋は隣に住んで居ながら、和希とだって話をする事は殆どない。
 
 きっと、何か重要な事なんだろう……



今は誰とも話をしたくなかったが、仕方なく和希に近づいた。


「何?」


「ちょっといいかな?」

 和希は、車を洗う手を止め遠慮がちに言った。



「うん。優一兄ちゃんの事?」

 南朋は自分でももよく解らないが、口からポロリと出てしまった。



「まあ。何かあったの? 目、赤いけど……」

 和希が、少し驚き心配そうに見た。



「ああ、風邪っぽいから……」


 南朋は慌てて目を押さえた。



「あのさ…… この間の祭りの慰労会の時、兄ちゃん秀二の事、殴っちまったんだよ……」



「えっ! 優一兄ちゃんが……」

 南朋は驚いて目を見開いた。


 優しい優一が、誰かに手を上げるなんて信じられなかった。



 それで、あの時、口元に傷があったのだと分かった。



「なんでか、分かるよね?」

 和希の言葉に、南朋は肯いた。


「私のせいだね……」



「兄ちゃんさあ…… 昔から、南朋ちゃんの事になると人が変わったように怒るんだよ。
子供の頃もさ、南朋ちゃんの事で家族を怒鳴った事もあるんだぜ」

 和希は少し困ったように南朋を見た。



「私…… 優一兄ちゃんに、迷惑かけてばっかりだね…… 子供の時から、いつも助けてくれていたのに…… 私が悪いんだよね……」


「いやっ、そうじゃなくてさ……」

 和希は、慌ててなにか言い掛けたが……


「大丈夫…… 優一兄ちゃんの結婚の邪魔はしないから…… 私、居なくなるから…… ごめんね」


 南朋は走って家へと向かった。


「ちょっと、待って…… 違うって……」

 和希の言葉が聞こえたが、南朋は足を止めなかった。


「やっべー 兄ちゃん―」

 和希も慌てて、家の中へと入って行った。
< 58 / 113 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop