星夜光、きみのメランコリー


右京くんは、あたしたちの会話を聞いて薄く笑った。常に口元が上がっている彼は、いつもにこにこしている。


「そ。あとは俺がやるから、千歳は帰宅していーよ。色々と悪かったな」


一色くんから、ハンコを受け取った。気がついたら、図書室にはほとんど人は残っていなくて、最終下校時刻が迫っている。

あたしが本を返却したのだってギリギリだったし、当たり前か。



「いーよ別に。どうせこの時間まで暇だったし。…彩田さん、家の最寄りはどこ?」


2人の会話を聞いていたら、一色くんは振り返ってあたしの方を見た。


「あ…えっと、長谷駅です」

「そ。じゃあ鎌倉駅まで送る。俺、近くに用があるから」


…送る。一緒に帰るってことなのかな。一色くんと。


一色くんは、少しだけ右京くんと話した後、そのまま図書室を出た。右京くんにサヨナラをしたあと、その背中を追いかける。

今まで、ちゃんと隣を歩いたことなんてなかったから、彼の背が思ったよりも高いことに気づく。

初めて出会った時も、一色くんは草むらに腰を下ろしていたし。2回目はあたしが寝転んでたし、今日だって2人とも座っていたし。


…こんな風に、隣にくっついているのは、なんだか新鮮。王子を追いかけて歩くなんて、側からみたらストーカーだと思われないかと、少し不安にもなる。


「一色くん、家は鎌倉駅の近くなの?」

「ううん…まぁそんな感じ。ちょっと行くとこがあるから、今日は駅まで行くけどね。どっちかっつーと、学校の方が近いかな」

「へえ…」


その後、家の近くにある高校だからここを受験したんだと教えてくれた。

用があるって。なんだろう。彼女とデート? いやいや、だったらあたしが隣を歩くことも許されるわけないか。

ばかな考えを頭の中で消し去った。いてもおかしくないとは思うけど、なんとなく、イチ女の子としてショックを受けるだろうから考えるのをやめたんだ。

< 36 / 140 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop