星夜光、きみのメランコリー
『天香』
耳元に届いた、アルトの声が、再びあたしの世界を締め付ける。
『……、お母さん…』
そこには、腕にお買い物用の袋をぶら下げた、お母さんが立っていた。
この日は、ピンヒールじゃない。普通の、運動靴。そりゃそうだ。きっと、畑に寄ったりしなきゃいけないからね。お店の準備をしなきゃいけないからね。
…でも、そんな見慣れたお母さんでも、この日は久しぶりに、怖い顔をして。
『…天香。何ひとりで話しているの』
…少し困ったように、息を吐きながら、あたしのところへ近づいてきた。
『…こんなとこで、やめなさいって言ってるでしょう。あれだけ言ってきたのに、あなたは、また…!』
『ちょっ…、痛い…!』
広げていた腕を取られた。その瞬間に、手元に集まっていた色たちは、あっという間に周りの空気と同化して、あたしのところからいなくなる。
『いい!?天香…! あまり、深く考えすぎるのはやめなさい…! その世界にとらわれるのはやめなさい!そのうち、抜け出せなくなるわよ…!!』
『…っ』
——とらわれるって、なにに?
『そんなんだから、友達からも変な目で見られるのよ…!もうすぐ高校生なんだから、その辺はしっかりしないと…!また孤立しちゃうわよ』
——抜け出せなくなるって、なにから?
『これ以上変なことを言うのなら、お母さんはあなたを病院へ連れて行きます…!』
——あたしの世界って、なんなの?
とらわれ。孤立。病院。変なこと。
そんなマイナスな言葉を並べられて、1枚1枚、分厚い壁を塗りたくられる、あたしの世界。
どんどん、閉じ込められていく。“ あなたはおかしい ” と、示されていく。
あたしの世界を、こわしていく。
『…しっかりしなさい。天香』
生まれた時から、あたしの周りにある世界で
お母さんは生きるなと言った。