星夜光、きみのメランコリー


・・・


次の日、逃げるように学校へ行った。

家にいるくらいなら、美術部や珊瑚のいる学校に行った方がまだマシだった。

お母さんは、あれから一言も口を聞こうとはしなかったし、あたしの世界を否定したことに、謝ろうともしなかった。


朝ごはんに置いてあったパンは、全然味がしない。ひとくちかじって、そのまま飛び出して、学校の門をくぐった。


廊下を進む。

あたしたちのクラスは、美術室の前を通って渡り廊下を渡ったところにある。だから毎日、美術室の匂いを感じて、落ち着いて登校できた。

今日も、そんな風に心を落ち着かせて投稿しよう。

…そう、決めていた。



美術室の前にある、あたしたち美術部の作品。廊下に飾ってあるのは、年度末に描いたものだ。あたしが、まだ2年生の頃。

それにしても、あたしが生み出した色たちは魅力的。初めて油絵を描いたけれど、そのボコボコとした凹凸からは、まるでひとつの街のように、色が溢れかえっていて。

結構、お気に入りだったのを覚えている。




“ 天香、おはよう ”


いつものように手で触れると、桜を描いたそのキャンバスから、優しい珊瑚のような色が言葉をくれた。


『…おはよう』


…たしかに、聞こえる。やっぱり、あたしの世界は勘違いなんかじゃない。妄想なんかじゃない。

確かに、ここにあるものなんだ。



『…きみたちは、やさしいね』


いつも、いつもやさしい。

温かくあたしを包み込んで、見守ってくれている気がする。

思わず、涙が出そう。クラスに行く前に、きみたちに会えてよかった。やっぱり、家を飛び出してきてよかった。


…あたしの世界が間違いなんかじゃないってこと、確認できてよかった。



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