きみだけに、この歌を歌うよ




九条くんと話すのは、1週間ぶりだ。

となり同士なのに、九条くんは休み時間になるたびクラスメイトに囲まれてしまうから会話はできていない。

ごめんと冷たく言われて以来のことだから、気まずくならないようあえてふざけてみた。



九条くんのすぐとなりに回って、黒い傘の中をニコニコしながら覗き込む。



「あぁ、もう……誰かと思えば菜々かよ。マジで心臓止まるかと思ったわ」

「ふふふ、よかった!九条くんの心臓が止まらなくてっ」



明るく笑いかけると、九条くんもうっすらとだけど笑顔を返してくれた。

よかった……これまでどおりの、なにも変わらない態度だ。



「珍しいな、こんな時間に帰ってるとか。どこか行ってたのか?」

「うん、梓の家がこの近くだからそこで梓と一緒にマンガ読んでたの」

「へぇ、なるほどな。だから今日は浜辺にいなかったんだな」



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