きみだけに、この歌を歌うよ
浜辺にいなかったって…。
もしかして九条くんは、今日も浜辺にいったの?
「だってそりゃあ、こんな雨の中だし…」
「小雨程度だったら、雨の中でも浜辺にぼーっと突っ立ってることあるじゃん?」
たしかに私は、九条くんを待つために弱い雨の中でも浜辺にいたことがあった。
九条くんに冷たく『ごめん』と言われたあとも、暇さえあれば浜辺にいった。
九条くんがまた、ギターを持って現れないか待ってた。
だけど九条くんは、その雨の日も私の前に姿を見せることはなかったんだ。
「なんで知ってるの?」
「俺の部屋の窓から、浜辺に突っ立ってる菜々が見えたから。日が暮れるまで、ぼーっと海を眺めてる姿ももう何度も見てる」