神様修行はじめます! 其の五のその後
『あたしは、死ぬ』


 たったひとつの概念があたしのすべてを支配して、全身からスーッと力が抜け落ちた。


 足掻こうにも、死はもう目前。こんなわずか一瞬で、あたしの世界が終わってしまう。


 目の前で鬼爪が振り上げられるのを、なすすべもなく黙って眺めながら心の中で小さくつぶやいた。


 門川君……。


 ごめんね。あたし、もう終わりみたい。


 最後にひと目、あなたに、会いたかっ……。


 ―― ドッゴオォォォ――ッ!


「……!」


 凄まじい勢いで、目の前の青鬼の体が真横に吹っ飛んでいく。


 その風圧で巻き上がった髪の毛の合間に『なにか』が見えて、あたしは、わけもわからずキョトンと立ち尽くした。


 見開かれた両目に、青鬼をブッ倒したヤツの姿が見える。


 見上げるほどの巨漢。


 隆々とした真っ赤な体躯。


 丸太のように太くて頑丈そうな手足。


 いかつい全身に不似合いな、可愛げのある大きな丸いひとつ目と、トラ縞柄のパンツ。


「…………」


 あたしは極限まで両目を開いてポカーンと口を開けたまま、ひたすら硬直していた。


 どうしても、声が、出ない。


 だって夢だとしか思えない。


 あたしを守ってくれた、この、鬼は……。


「……しま子?」
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