婚活女子とイケメン男子の化学反応
小走りに会社から飛び出すと、突然、腕を掴まれた。
「やっと捕まえた」
その声は零士さん。
私がスマホの電源を切っていたから直接来たのだろう。
「鈴乃。昼間はごめん。ちゃんと話すから聞いてくれないかな」
余裕のない声で零士さんが言う。
「ごめんなさい。今日は疲れてるので」
私は零士さんの手を振り払った。
話を聞くのが怖かったからだ。
だって、このまま別れを切り出されちゃうかもしれないし…まだ心の準備なんてできていない。
「待って、鈴乃!」
歩き出す私の腕を零士さんが再び掴む。
「ちゃんと理由を聞いてくれ」
「いえ、今は聞きたくないです。離して下さい!」
「鈴乃!」
「いや! 離して!」
と、零士さんともみ合っているところに、タイミング悪く杉田さんが会社から出てきてしまった。
「おい、彼女を離せ! 彼女にひつこくして泣かせてるのはあんただな!」
杉田さんは大声で叫びながら、私を零士さんから引き離した。
どうやら零士さんのことを、ストーカーか何かだと勘違いしてしまったようだ。
「いえ、あの…違うんです。杉田さん」
「もう大丈夫だよ、仙道さん。僕が来たから安心して」
杉田さんはそう言うと、私を零士さんの前で抱きしめた。
「ご覧の通り、彼女は僕と付き合ってるので、お引き取り願えますか」
えっ!?
ギョッとして杉田さんの顔を見上げた瞬間、地を這うような恐ろしい声が背後から聞こえた。
「は? おまえ、ふざけんなよ?」
河野さんの時も思ったけれど、恐らく零士さんは武道か何かをやっているのだろう。
私は一瞬のうちに零士さんの胸の中へ。
ふと杉田さんを見ると、痛そうに手首を押さえながら、その場にしゃがみ込んでいた。
「仙道さん、今、警察呼んであげるからね」
杉田さんがポケットからスマホを出した。
「あの、違うんです、杉田さん! 誤解です! この人は私の」
言いかけて、私は言葉を止めた。
「私の?」
杉田さんがスマホから手を離した。
「私の……」
分からなくなった。
零士さんは一体私の何なんだろう。
切なくて涙が溢れそうになる。
「婚約者だよ」
私の代わりに零士さんがハッキリと答えた。
「婚約者!?」
杉田さんの目が大きく開かれた。
「仙道さん、ホントに?」
「は、はい。お騒がせしてすみませんでした」
ポカンとする杉田さんに、私は頭を下げた。
「そういうことなので、今後一切、鈴乃には近づかないで下さい」
零士さんは静かにそう告げると、私の手を握り無言で歩き出した。
“婚約者だよ”
零士さんの言葉で、ようやく自分を取り戻した私。
ちゃんと彼の話を聞いてみようと覚悟を決めた。