婚活女子とイケメン男子の化学反応

やって来たのは、会社近くの公園だった。
昼間来た時とは打って変わり、すっかり人気もなくなって公園内は静まり返っていた。

ベンチに腰を下ろすと、早速零士さんが口を開いた。

「昼間のことだけど………」

「は、はい」

ごくりと唾を呑む私に、零士さんがいきなり頭を下げてきた。

「ごめん」

「……………」

この“ごめん”は、何の“ごめん”だろうか。
麻里奈さんへの想いでも打ち明けられて、このままフラれてしまうのかと不安になる。

黙ったまま見つめていると、零士さんは顔を上げて真剣な表情でこう口にした。

「会員だなんて言ってホントにごめんな。どうしても鈴乃とのことを葵の耳に入れたくなかったから」

「え………葵さんに?」

麻里奈さんにじゃなくて?
キョトンする私に、零士さんは一呼吸おいてからこう言った。

「あいつは、人の彼女にこっそり手を出す癖があるから」

「え……どういうことですか」

「うん。まあ……俺の気のせいかもしれないんだけど」

口ごもる零士さん。
あまり突っ込めない雰囲気だ。

「とにかく、そういう事情で鈴乃とのことはしばらくは伏せておきたいって思ってる。でも、それをちゃんと鈴乃に話しておくべきだったよな。不安な思いをさせてごめんな」

再び頭を下げる零士さん。
ホッとしたことはホッとしたのだけど…。

「じゃあ、麻里奈さんには隠くすつもりなんてなかったんですね?」
 
「麻里奈?」

零士さんが顔を上げて考えこんだ。

「あ~まあ、そうだけど。麻里奈は葵とも仲が良いし、しばらくはあいつにも伏せておきたいかな」

「そう………ですか」

「ごめん。俺のワガママで」

「あ……いえ。そういうことなら」

何だろう。
何だかスッキリしない。

結局、麻里奈さんは零士さんの何なんだろう。

「あの……麻里奈さんと零士さんって……一体どういう関係だったんですか? お付き合いされてたとか」

とうとう聞いてしまった。
私がこんなにストレートに聞いてしまうなんて、嫉妬とは恐ろしいものだ。

「まさか。麻里奈とはただの幼なじみだよ。何だかんだで大学まで一緒だったけど」

零士さんはおかしそうに笑っていた。

「そうですか」

まあ、幼なじみも十分嫌な響きだけれど。

彼女とは本当に何でもないんだよね?
零士さんの顔を見つめると、そのまま彼の胸へと抱き寄せられた。

「ごめん。俺も聞いていい?」

耳もとに切なげな声が響く。

「何ですか?」

「さっきの男だけど……あれ、何?」

「あ………」

忘れてた。
私は零士さんの前で杉田さんに抱きしめられたんだった。

「あれは違いますよ!あれは杉田さんが零士さんをストーカーか何かだと勘違いして……それであんなことを」

ブルブルと首を振り全力で否定すると、零士さんがため息を零した。

「いつからちょっかい出されてたの?」

「え……」

零士さんの手が私の頬に伸びてくる。

「鈴乃のこと狙ってる奴……他にもいるんだろうな」

「い、いえ……そんなことは」

「また前髪伸ばしたら?」

「え?」

キョトンとする私を見て、零士さんがふっと笑う。

「まあ、いいや。こっちで何とかするから」

そんな言葉と共に、首筋にチクリと痛みが走った。

「い、今……何をしたんですか?」

「何も」

零士さんはクスッと笑いながら、今度は私の唇を深く塞いだのだった。




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