恋し、挑みし、闘へ乙女
「そう? 何? 今ので焼いたのかな?」

綾鷹の口元がニヤリと上がる。

「いいねぇ、君がジェラシーを感じていると思うだけで。私のここが」と自分の胸を親指で指し、「ズンと甘く痺れる」と言い、「本当、君は可愛いね」と座敷机の向かいに座る乙女に笑いかける。

あの店員ではないが、彼の毒牙に当てられると這い上がれない蟻地獄に落ちそうだ、と乙女は視線を逸らす。

そこに先程の店員が現れる。

「お待たせ致しました。改めて、いらっしゃいませ」

店員はテーブルにお手拭きとお茶を置き、「こちらは当店自慢の」と言いながら、小さなチョコレートが六粒乗った皿を中央に置く。

「自家製ラムレーズンチョコです。もう、すっごく美味しいんです。売店で売っておりますので、お気に召したらお買い求め下さい」

キャンペーン中? この間はこんな台詞はなかったが……と思いつつ、この子、素朴そうな顔をして意外にやり手みたいと感心する。

それにしても……店のマニュアルだとしても何となくこの子が勧めると、帰りに買って帰ろうかしら、と思ってしまう……と乙女は気になりだしたチョコレートを見る。

その間に、「こちらがメニューです」と店員は赤紫色のメニューブックを綾鷹に差し出す。そして、「後ほどお伺いに参ります」と腰を上げようとするのを、「悪いが少し待ってくれないか」と綾鷹が引き止める。

彼にそう言われて立ち去る女はいないだろう。案の定、店員は目を輝かせ、上げかけた腰をすぐさま下ろす。
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