恋し、挑みし、闘へ乙女
「唐突だが、先日の様子を聞かせてくれないだろうか?」
「先日というと、この方が男の方と……?」

「だからそれは……」と反論しようとする乙女の言葉に被せ、綾鷹が「そう、それ」と頷いた。

すると、打って変わったような訝しげな顔で店員が綾鷹を見る。

「――ここで私が何か言って、ブスッと刃傷沙汰なんて厭ですよ!」

店員の言うことももっともだ。

「いや、そうじゃなくて。安心して大丈夫だよ。私は彼女を愛している。何を聞いてもその気持ちは変わらない」

綾鷹の甘い台詞に店員がポーッと頬を桜色に染め、「まぁ、素敵!」とピンクの息を吐く。

何だこの三文芝居、と乙女はシラけ顔だ。
そんな乙女にはお構いなしに「実はね……」と綾鷹が声を落とす。

「彼女は私の婚約者なのだが、人が良すぎて騙され易いんだ。この間の件もね……ここだけの話……」

女は『ここだけの話』に弱い。
綾鷹がある事ない事、嘘八百を並べ店員の同情を引く。

「まぁ、そうだったのですか! それはお気の毒でした」

店員の憐れみの目が乙女を見る。
綾鷹の嘘で、乙女は詐欺師に大切な婚約指輪を盗られた人になってしまったのだ。

「それにしても、お嬢さん、世間知らず過ぎますよ。今流行の“知り合い詐欺”になんかに引っかかるなんて」

おまけに説教まで食らってしまう。
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