恋し、挑みし、闘へ乙女
「君もそう思うよね。いくら彼氏の知り合いだからといっても『金を貸してくれ』と言われても普通は貸さないよね」

「当然です」と店員は頷く。

「おまけに、『手持ち金がない』と断っているのに、『その指輪を質に入れれば現金ができる』と言われ、疑いもしないで言う通りにしちゃうのだからね、困った子だよ」

店員の目が『貴女、馬鹿ですか?』と乙女を見る。

馬鹿じゃないと思いつつ、二人の話を聞いていると全て本当のことのように思え、最低の男に騙された馬鹿な自分が可哀想になる……が全て作り話だ。乙女が反省する必要は全くない。

「――言われてみればあの男、妙に色気が……」

だが、どうやら作戦は成功したようだ。店員が何か思い出す。

「実は私、めっぽういい男に弱くて……」

チラッと彼女の目が綾鷹を見る。

「だから本当は、店に入ってきたときからその男のことを見ていたんです」

おお! イケメンレーダー作動だな、何てグッジョブな記憶力なのだ、と乙女は心の中で親指を立てる。

「それで?」

綾鷹が先を促す。

「さっきみたいに『いらっしゃいませ』と出迎えたんですが、その途端、電話が掛かってきて……」

男は店員に『待て』のポーズを取り電話に出たという。

「彼、電話の主を『御前』と呼びました……きっと偉い方ですよ。電話に向かってペコペコと頭を下げていましたから」
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