恋し、挑みし、闘へ乙女
「それは楽しみだ。他に食べたいものはあるかい?」

綾鷹が訊ねると、乙女は速攻で答える。

「磯辺焼きのほうじ茶セットをお願いします」
「だそうだ。それもよろしく」
「かしこまりました」

店員は「少々お待ち下さい」と頭を深々と下げ、いそいそと部屋を辞した。
彼女の気配がなくなると、乙女は溜息交じりに言う。

「綾鷹様は二枚舌じゃなく三枚、いえ、五枚舌ですね」
「嘘も方便と言うだろう?」

悪びれず言う綾鷹を乙女はヤレヤレと眺めながら、全くどうしようもない男だと呆れながらも感心する。

こんな最低で、でも、悔しいほどいい男が……頭の片隅にあの規則が浮かぶ。婚ピューターが選んだ見合いの相手。意に反し深層心理というものが、フラフラと綾鷹の方に流されていく。

危ない危ない、と乙女はラムレーズンチョコを一個口に入れ、甘酸っぱい味覚を楽しみ、お茶で口を潤す。

しかし、どう抗ってもいい男だ。茶碗の陰から綾鷹を盗み見し、いやいや、と乙女はブルンと頭を振り、いかん! 気をシッカリ持つのだ、と深呼吸をする。

「――君は何をしているのかな?」

フルフルと乙女の真似をして綾鷹が頭を振る。

「なっ何でもありません! それより先程の話ですが……」

乙女が誤魔化すように言う。
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