俺様社長に甘く奪われました

 そんなことを考えているうちに最上階に到着。扉が開いた途端、階下とは別世界が広がる。ライトグレーの絨毯が敷き詰められた通路は、いつも賑やかな五階のフロアとは違い、どことなくピンと張りつめた空気に包まれている。余計な装飾のないあっさりとした内装はかえって重厚感を醸し出していて、何度来ても緊張を強いられる場所だ。

 内線のあった秘書室のドアをノックすると、社長秘書の上田がすぐに顔を出した。


「総務部の倉木です。先ほど異臭の件でお電話を受けたので参りました」


 頭を上げ下げして目線を合わせると、彼女が目を瞬かせる。


「あなたで対応できるんですか?」


 率直な意見に莉々子がうろたえる。


「あ、いえ……。すぐに担当の者は参りますが、ひとまず状況を確かめてからと思いまして……」


 どことなく納得のいかない様子で、上田は「そうですか」と表情も崩さず真顔で返した。

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