俺様社長に甘く奪われました
取締役の秘書たちはどの人も同じメイクに同じヘアスタイルをしていて、どことなく冷たい印象もあるせいか、莉々子は一方的に苦手意識を持っている。しかし、凛とした仕草は見習いたいところだ。
「では、こちらへどうぞ」
上田のあとに続いて社長室へと入ると、三十二歳の若き社長、望月奏多(もちづき かなた)はデスクに両肘を突き、莉々子に目を向けた。切れ長の美しい瞳を一瞬だけ見開き、そのまま彼女をじっと見据える。そこにいるだけで存在感があり、華のある佇まいは社内でも随一。
まさか異臭のする部屋に望月が残っているとは思いもせず、彼の目の持つ特有の鋭さに一瞬怯みながら、莉々子は「お、お疲れさまです」と慌てて挨拶をする。
すると、真顔だった目元にわずかではあるが笑みを浮かべ、「お疲れさま」と彼から返された。
クールで無愛想だという噂をたまに聞くが、それはおそらく望月の発するオーラに圧倒されてしまうからだろう。たとえ人混みの中であっても、彼の放つ強い空気感ですぐにその姿は目につくに違いない。涼やかな目元のせいで鋭い印象のある顔立ちも、それに拍車をかけているように思える。
アップバングの黒髪をまとめた無造作ヘアはばっちりと決まり、鼻も高い。おまけに百八十センチ以上という長身の効果もあり、上質なスリーピースのスーツの着こなしもモデル並みに抜群。女性に媚びないクールなところがいいと、社内でも絶大な人気を誇っている。