俺様社長に甘く奪われました

 東条の叱責をものともせず、望月は落ち着き払ったように相手の女性に向かって丁寧に頭を下げた。


「さぁ行こう、莉々子」


 望月が手を取って歩きだそうとするので、莉々子は慌てて「失礼いたします」と頭を下げた。

 つい今しがた莉々子たちを案内してくれた着物の女性が引き戸付近に立っていて、事の成り行きを唖然と見守っているのが視界の隅に映る。いくら守秘義務を教育されたスタッフとはいえ、このあと仲間たちに報告することは簡単に予測がついた。

 歩いてきたばかりの廊下を戻りながら、望月が「上出来だ」と満足そうに笑う。


「上出来なんかじゃないです。さっきから足の震えが止まりません……!」


 莉々子が小声で抗議してみたものの望月は愉快に笑うばかりで、すっかりこの状況を楽しんでいる。

(なんて人なの……!)

 顔をしかめて彼を見たものの、望月は莉々子にいたずらっぽい流し目を送ってよこす。

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