俺様社長に甘く奪われました
「……なぜここへ連れてきたんだ」
東条の瞳が静かな怒りに揺れる。
いったいなんの用事でそこに突っ立っている!と叱責したいのを見合い相手の手前、なんとか堪えているといった様子だ。莉々子を排除しようという空気がひしひしと伝わる。
「申し訳ありませんが、この結婚はいたしかねます」
「なに!?」
東条が声を荒げたので、莉々子は思わず肩をビクンと弾ませてしまった。
「こちらにいる莉々子さんは、僕の恋人です」
五人の目が再び莉々子に注がれる。さきほどよりも数倍も攻撃力のあるものだった。
隣から“なにか言って”という空気が漂ってきたのを察知し、莉々子が「奏多さんとお付き合いさせていただいております」と震える唇をなんとか動かしてはっきりと言う。心臓は今にも口から飛び出してしまいそうなほどに暴れていた。
「口を慎みなさい。先方に失礼じゃないか」
「この度はわざわざこのような場にお越しいただいたのに大変申し訳ありませんが、今回のお話は辞退させていただきます」