俺様社長に甘く奪われました

「そのへんのピアニストよりずっと上手いからね、奏多は」
「お世辞はよせ」
「お世辞じゃないよ。“ピアノ王子”なんて呼ばれて、おっかけもいるんだよ、莉々子さん」


 急に話を振られて驚きつつ、莉々子は「その方たちならお会いしました」と返す。望月はかなり迷惑そうにしていたけれど。


「ところで日曜日だっていうのに、その格好はどうしたんだ?」


 京介がスーツ姿の望月をざっと眺めて顎に手を添える。


「見合い」


 望月がボソッと返すと、京介は「見合い? そのお相手が莉々子さん?」と莉々子を一瞥して首を傾げた。


「いや、その見合いに乗り込んだのが莉々子」
「そ、それは社長に頼まれたからじゃないですか……!」


 莉々子が懸命に力説する。その言い方では、まるで莉々子が望月の見合いを自らぶち壊しに出向いたみたいだ。すべての罪を背負わせるのはひどいと莉々子はささやかながらも憤慨した。

ところが、望月にはまったく堪えた様子はない。それどころか、頬を膨らませる莉々子を愛しそうに見つめる。

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