俺様社長に甘く奪われました

「特に異常は見受けられませんでしたが。ただ今、社長は打ち合わせ中でございますので、明日以降もう一度いらしていただけませんか?」


 どこか訝るように莉々子を見ながら、上田は莉々子をエレベーターへと誘導した。完全な不審者扱いだ。


「は、はい……」


 秘書にそう言われてしまえば莉々子も従う以外にない。「失礼しました」と頭を下げ、エレベーターに乗り込んだ。
 ビルを出てトボトボと歩く。

(どうしよう。直接会えないのなら、やっぱりメールしかないかな……)


 バッグからスマホを取り出し、望月の連絡先をタップする。メール画面にして文字を打とうとしたところで莉々子は指先を止めた。

(メールなんかで済ませたらダメだ。ひどい言葉を浴びせておいて、文字だけの謝罪なんて失礼すぎる。直接顔を見て謝ろう)

 ホームボタンを押してスマホを閉じ、バッグに突っ込んだ。


 タクシーを乗りつけて莉々子がやってきたのは、望月のマンションだった。
 煌々と明かりのついた立派なエントランスの近くでひたすら彼を待つ。

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