俺様社長に甘く奪われました

 祥真に再び心が惹かれることはない。そう言い切れるのは、莉々子の中で奏多の存在が大きなものになっているからだった。


「……わかった。そのかわり約束して。間違いは絶対に起こさないって」
「うん、約束する」


 小指を出した真紀と指切りをして、莉々子はロッカールームからひと足先に出た。

 五月中旬の夜は、暖かさと寒さとが入り混じる空気の中にある。その混濁した状態は、まさに莉々子の心の中を映したようだった。

 アストロの前に着くと、莉々子の身体に嫌でも緊張が走る。約三年ぶりにドアを開けると、カウンター席によく知った背中を見つけた。
 ゆっくりと振り返った祥真が微笑み、軽く手をあげる。あの頃と変わらぬ爽やかな笑顔に、莉々子は不覚にも胸がズキンと痛む。懐かしさとともに、苦い想いが込み上げた。


「やっぱり来てくれたね」


 まるで莉々子が来ることは最初からわかっていたような口ぶりだ。


「私も聞きたいことがあったから」
「そう。なに飲む? いつも飲んでたモスコミュール?」

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