俺様社長に甘く奪われました

 笑顔を浮かべるが、やはりどこかいつもと違って見える。


「心配してくれてありがとう。それじゃ、お疲れさまでした」


 帰る方面の違う志乃と手を振って別れる。普段と違う志乃が気になりつつ、莉々子は今夜の夕食のことを考え始めた。

(奏多さん、今夜はなにが食べたいかな……)

 奏多はどんなものでもおいしいと食べてくれるものだから、莉々子もつい張り切って作ってしまう。つい先日も、香辛料の調合から手作りで作った大量のカレーを、奏多は飽きることなく三日にも亘って食べてくれたのだ。
 さすがに量的なことは考慮しなければと考えながら階段を下りている途中で、ホームから電車の発車メロディーが流れてきた。

(よし、あれに乗っちゃおう)

 そう思い、階段の中頃で足取りを速めたときだった。背中になにかが当たり、押されるようにして前のめりになる。


「キャッ……」


 なんとか数段はきちんと踏んだものの、残りの何段かを踏み外し、莉々子はホームに倒れ込んだ。

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