俺様社長に甘く奪われました
「こんなところまでいったい……? なにかございましたか?」
部長の木村が不安そうに歩み寄る気配がした。なにしろ総務部にわざわざ望月がやってくることなどほとんどない。いったい何事かと不審がるのも当然だろう。
「いえ、ありません」
そう答えてから望月の視線が莉々子へと下りてくるものだから、なにを言われるのかと彼女の胸が張り詰める。
「忘れ物だ」
望月が気を持たせるようにして紙袋を莉々子に突き出した。その目が妖しげに揺れる。
(忘れ物って……?)
ゴソゴソと音を立てて焦りながら中を確認すると、なんとそれは莉々子が脱ぎ捨ててくたくたになったストッキングだった。
実はホテルの部屋を飛び出してすぐにそれを忘れたことを思い出したが、すでに扉はオートロックで閉まったあと。チャイムを鳴らして望月を起こすことは避けたくて、そのままにしてしまったのだ。
それをまさか望月が丁寧に持ち帰って、こうして届けるとは思いもしなかった。