俺様社長に甘く奪われました
捨ててくれればよかったのにと思ったところで、莉々子はそれを声にも出せない。なにしろさきほどから彼女の背中には、みんなの視線が痛いくらいに突き刺さっているのだから。
「……あ、あ、ありがとうございました」
莉々子がつっかえながらお礼を言って望月にそそくさと背を向けると、部内の空気を感じ取ったのか、ようやく彼が立ち去る気配がした。
ふぅと大きく息を吐き出し、紙袋を小さく丸める。本当に勘弁してほしい。
顔を上げると、部長以下全員の目はまだ莉々子に向いていた。
「忘れ物ってなんですかぁ? 社長がわざわざ届けるってよっぽどですよ。どこになにを忘れたんですか?」
松永が興味津々に尋ねる。
「あ、えっと……」
ホテルにストッキングを忘れたとは、とてもじゃないが言えない。
「た、たいしたものじゃないの。ちょっと、ね」