俺様社長に甘く奪われました

 はっきりと言われ動揺した莉々子は、ハッとして彼を見た。


「……私だって気づいていたんですか?」
「まあね」


 驚いて尋ねると、望月は一瞬だけ目を合わせた。


「といっても半年前か。ここ半年間は中国での事業推進で日本にはあまりいなかったから、莉々子との接点を持てなかった」


 半年前と言えば、莉々子が生活資材部から総務部へ異動した頃だ。


「莉々子はあの夜、俺が朝ソリの社長だと気づいていたんだろう?」
「……社員なら社長の顔がわからないことはないですから。あの夜はその……すみませんでした……」


 あの夜のことは一生封印して生きていくものだと思っていた。振られた夜に別の男に抱かれるような軽率な行動をした自分が信じられなく、許せなくもあったのだ。


「莉々子の偏見を矯正してやるというのは上辺の理由に過ぎない。あの夜からずっと、莉々子のことが心に引っかかったままだった」

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