クールな部長は溺甘旦那様!?
いま、なんて? 広告契約を……?

私は剣持部長の補佐になる。ということは、メフィーアとも再び関わらなければならないということだ。私の脳裏にトラウマになったシーンが断片的にフラッシュバックする。

「わ、私……無理です」

口に手を当て、震えだしそうになる声を咄嗟に抑える。けれどすでに手の指先は小刻みに揺れていた。せりあがってくるプレッシャーに、つい弱気な発言がポロリと口からこぼれてしまう。

「無理、とは?」

その震えを宥めるように、剣持部長の手が震える私の指先を包み込む。

「もしかして、さっき前野さんと話していたのはそのことだったんですか?」

「そうだ」

剣持部長は誤魔化すでもなくはっきりとそう私に言った。

「私はきっと剣持部長の邪魔になります。だって――」

「君はいつまで過去のしがらみにとらわれているつもりなんだ?」

厳しい言葉が私の胸を刺す。確かに彼の言うとおり、私はずっと逃げている。みんなの迷惑にならないように、もう二度とあんな思いはしないように。
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