クールな部長は溺甘旦那様!?
テーブルにコーヒーを持っていくと、剣持部長が力なく笑って冷静さを取り戻すようにそれをひとくち飲んだ。そして椅子に座ると両肘をついて組んだ手を額に押し付けたまま、深く息づいた。「一体どうしたんですか?」と、すぐにそう声をかけたかったけれど、彼の困惑した様子にそれも憚られる。

「先方が広告予算額を一億ほど削減したいと言ってきたそうだ」

「えっ! 一億……」

当初の予定では二百億だったはずだ。すでに当初の予定でほぼ企画書は出来上がっているというのにいまさらな話だ。金額からして二百億から一億減らしたところでたいした影響はないと思いたいところだったけれど、細かいところで帳尻が合わなくなってしまう。だからこそ剣持部長は唇を固く結んで深く考え込んでいた。

「予定変更があるにしたって、連絡してくるの遅くないですか?」

「あいつがいつ先方から連絡をもらっていたかはこの際どうでもいい。とにかく、企画書の修正が先だ」

苛立ちを隠せないように顔をしかめ、剣持部長はもう一度企画書に目を通し始めた。
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