クールな部長は溺甘旦那様!?
私が事故に遭った後、ひとつショックなことがあった。ポケットに入れていた指輪がなくなってしまったのだ。

事故の衝撃できっと落としてしまったのだと思うけれど、それからすごく落ち込んでいた。大事にしようと思って肌身離さず持っていたのが結局、仇になってしまった。剣持部長に浮かない顔の理由を尋ねられて、正直に話すと彼はひとこと「気にするな」と言った。

気にするなって言っても気にするよ、結婚指輪だもん……。

前までは指輪がないとなんとなく不安になっていた。今はお互いに結婚していることを認めているし、そんなふうに思う必要はないのはわかっているけれど。

「莉奈」

ふいに名前を呼ばれて視線を上げると、剣持部長の表情に先ほどの笑みはなく、どことなく思いつめたような沈んだ顔をしていた。

「今日、君に伝えなければと思ってタイミングを見計らっていたんだが、少し言いにくい話があるんだ……」

「え?」

言いにくい話? なんだろう? なにか仕事でトラブルがあった……とか?

考えてみるけれど見当もつかない。剣持部長は言葉を選んでいるようで、伝えなければといいつつ、なかなか口を開こうとしなかった。するとその時、面会時間終了の院内アナウンスが流れてきて、剣持部長が力なく苦笑した。
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