クールな部長は溺甘旦那様!?
「あの、もう身体とか動かせますし、ここでできる仕事があったら――」

「馬鹿、そんなことさせられるか。仕事が気になるのはわかるが、今は考えなくていい」

今回、メフィーアの新商品を宣伝していく媒体はCMではなくブライダル雑誌を中心とした雑誌広告、交通広告だ。特に雑誌広告は購読者層に合わせてターゲットが絞りやすいし、再読率も高いというメリットがある。剣持部長は採用が決まっても休む間もなくアカウントエグゼクティブとして制作に追われていた。それなのに、どんなに遅くなっても面会時間に間に合えばこうして私に会いに来てくれる。

「すみません、なにもお力になれなくて……」

ふたりだけの時間を過ごせるのは幸せだけど、ここでずっと剣持部長に甘えているわけにはいかないのはわかっている。そんな歯がゆい思いに視線を落とすと、剣持部長が鞄と一緒に持っていた紙袋を手渡してきた。

「君が戻ってきたら遠慮なくこき使うつもりだから、今のうちにゆっくり休んでおけ。今日の土産だ」

「あ! ジンジャークッキー! しかも私の好きなお店のやつ」

私がジンジャークッキー好きなこと、覚えててくれたんだ……。

こんがりと焼かれたおいしそうなクッキーを袋から取り出すと、かすかに香ばしいいい匂いがした。

「ありがとうございます」

思わず笑みがこぼれると、それに安心したように剣持部長も頬を緩めて小さく笑う。

「君の笑顔が見られてよかった。そうやって笑っている方がいい」
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