軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
この流れには既視感があった。男の心の機微など読めない妻に対し言葉の選択を間違えたことを悟ったアドルフは、繕う言葉を探し、けれどそのもどかしさに耐え切れず椅子から立ち上がる。
そして向かいの席までやって来ると、椅子に座っているシーラを強引に立たせ、抱きしめ、おかしな質問をしてきた唇をキスで塞いでしまった。
いつもより乱暴に唇を重ね解放したのは、余裕がない表れだ。
「……お前に魅力を感じていなければ、毎晩キスなどするものか。いちいち恥ずかしいことを言わせるな。いい加減に分かれ」
驚きでポカンとしていたシーラの顔が、面白いほど真っ赤に染まっていく。感情表現が素直過ぎる彼女のことを愛らしくも思うが、つられて自分も顔が熱くなってきたのを感じて、アドルフは慌てて抱きしめていた身体を離した。
「とにかく、無茶をするな。小さいことは何も迷惑じゃないが、腹を壊されたら迷惑だ」
そう言い捨てて、アドルフはクルリと背を向けると朝食部屋から出ていった。羞恥で頭が熱くて、これ以上シーラと同じ空間にいられない。
すると、すぐに朝食室の扉が開き、廊下を歩くアドルフの背に声がかけられた。
「あ、アドルフ様! それって、アドルフ様も私に恋してらっしゃると思っていいのですか!?」
まさかの恥ずかし過ぎる質問に、アドルフは振り向くこともできないまま汗をひとすじ流す。
廊下に立っていた衛兵が慌てて聞かなかったふりをして目を伏せたが、その口もとは笑いを噛み殺して震えていた。
アドルフは何も答えずそのまま立ち去ろうとしたが、それではまたシーラを落ち込ませてしまうと考え直し、半ば自棄になって叫ぶ。
「ああ、そうだ! お前の言う通りだ! だから二度と聞くな!」
大理石の広い廊下に響いた皇帝のぶっきらぼうな愛の言葉は妻を煌くような笑顔にしたが、代わりに『皇帝陛下は少年のような恋をしている』と軍神の沽券にかかわる噂を宮殿中に広めることになってしまった。