軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
しかし、てっきり誰かの謁見申請を通して欲しいという願いだと思っていたシーラは、彼が手を引いて足早に果樹園の奥へ向かって歩き出したことに驚いた。
「ど、どこへ行くの? ボドワン」
「あなたをその人に会わせに。大丈夫、あなたに危険なことは何もありません」
いったいどういう意味だろうか。もしや相手はなかなか謁見の申請が通らない平民だから、王宮を通さずにコッソリ会って欲しいということなのだろうか。
あれこれ考えながらも少し不安が湧いてくる。アドルフに迷惑をかけるような事態にだけはしたくない。
するとボドワンは果樹園を抜けて狩猟公園の柵が見える道にまでやって来た。ここは庭園の南側の最奥となる。
シーラは振り向いてクーシーが後をついて来ているのを確認すると、足を竦めた。
「待って。狩猟公園には近づきたくないの。以前、柵の隙間からクーシーが公園に入ってしまって迷子になったことがあって……」
あれから柵の隙間は塞いだと聞いたが、別の場所に同様の隙間があっても不思議はない。同じ失敗は繰り返したくなくてシーラがそう訴えると、ボドワンは足を止め引いていたシーラの手を離した。
「……じゃあ、クーシーにはここで待っていてもらいましょう」
少し考えてからそう言うと、ボドワンはシーラの持っていたリードを受け取り、それをクーシーの首輪と手近な木に結んだ。
クーシーは賢く滅多にシーラから離れることはないので、普段はリードをしていない。使うのは他の人間に預けるときぐらいだ。
リードに慣れていないせいかクーシーはとても嫌がって悲しそうな声をあげる。
「ごめんね、クーシー。すぐに戻ってくるから。いい子にしていてね」
フカフカの身体を何度も撫で、ギュッと抱きしめて鼻にキスをしてからシーラはクーシーから離れた。
けれど、いつもならおとなしく「待て」ができるのに、クーシーはいつまでも悲し気に鳴いている。
それがとても気になってシーラは何度も振り向いたけれど、ボドワンが「さあ、行きましょう」と急かすように腕を引いたので、仕方なく歩みを進めた。