軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
果樹園を抜け狩猟公園に沿って東側にずっと歩いていくと、柵に鉄格子でできた小さな扉があった。どうやらそこは公園内の管理者通路に繋がっているらしい。樹々の立ち並ぶ森の中に塗装された幅広の道が設けられている。
在国大使とはいえどうして異国の者であるボドワンがこんな場所を知っているのかも、管理者用の扉なのに鍵が壊れていたこともやはり腑に落ちず、シーラの歩みにためらいが生じ始める。
「ねえ、ボドワン。私やっぱり無断で遠くへは……」
引かれていた手をふりほどき、足を止めたときだった。
「着きましたよ」
振り返ったボドワンが前方を指さす。そこには一台の小型の黒い馬車と、馬に跨り目深にフードをかぶったマント姿の男がふたりいた。
まさか、馬車に乗ってさらに移動するのだろうか。さすがに宮殿から勝手に離れることはできないと断ろうとしたとき、馬車からひとりの男が降りてきた。
「……あなたは……」
見覚えのある白髪の男の姿に、シーラは目を見張る。
「お迎えに上がりました、シーラ殿下。……いえ、国王陛下。クラーラ様がお待ちです。祖国へ参りましょう」
シーラの足元に恭しく跪いてこうべを垂れたのは、フェイリン王国マシューズ公爵。シーラの血縁と名乗り涙を流した、あの男だった。