軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
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アドルフは激昂した。
宮殿内にマシューズ公爵の手の者が潜り込んでいたあげく、シーラと密接な関係を築いていたというヨハンの報せに、彼は怒りでこぶしが蒼白になるほど握り込んだ。
しかも、その報せを受けた直後だった。シーラが行方不明になったとの一報が飛び込んできて、彼はマシューズに先手を打たれシーラを奪われたことを知り激怒した。
「国中の通りを封鎖しろ! 絶対に奴を逃がすな!」
侍従武官達に命令を叫んで、アドルフは机をこぶしで殴りつけると「くそっ!」と軋むほど奥歯を噛みしめる。
卑劣な手段を用いたマシューズが忌々しいのは当然だが、臣下らの失態にも腹が立つ。シーラとボドワンが親密になっていたことに気づきながら警戒を怠ったのだ。遠征戦の最中でそれどころではなかったことや、まさか純朴なシーラが不貞を働くはずがないという油断が、このような結果に繋がったのだろう。あるまじき等閑だ。
けれど何よりも、まんまとシーラを奪われた自分に腹が立つ。
どうしてもっと彼女の動向に注意しなかったのか。こんなことならば縄で括ってでも自分の手元に置いておけばよかったと後悔する。年上だとか威厳だとかそんなものはかなぐり捨てて、俺だけを見てそばにいろと卑しいほどに彼女を束縛していれば、こんなことにはならなかったかも知れない。
全身全霊をかけて守り抜くと誓ったくせに、それすら果たせず何が軍神か。アドルフは己の情けなさにはらわたが煮えくり返る。誰かに罰せられればまだ楽だったかも知れないのに、皇帝という立場にはそんな慈悲すら与えられない。
「シーラ……!」
低く呻き、片手で顔を覆った。
一刻も早く彼女を取り戻さねばならない。マシューズの企みは読めている。いきなりシーラに手荒な真似はしないだろうが、最終的に奴の作戦に彼女が首を縦に振らなければどうなるかは分からない。
それに、フェイリン王国へ連れていかれたのなら、シーラは必ず対面してしまうはずだ。あの真実と。
「テオドール! 俺の馬を用意しろ! シーラの追跡は俺が先頭に立つ!」
皇帝自らが行方不明となった皇妃の追跡に乗り出したことに、臣下らは一瞬驚きを見せたが、すぐに指示に従った。敵を前にしたときのアドルフの判断は、一度たりとも間違ったことがない。皇帝の指示を仰ぐことこそが、帝国にとって窮地を脱する唯一の光明だ。
すぐさまシーラの捜索、および追跡が開始され、アドルフは追跡隊の先頭に立ち宮殿を出発した。