軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
今までに見せたことのない熱っぽい表情でボドワンが言葉を紡ぎかけたときだった。
窓の外から地鳴りのような音がだんだんと近づいてくるのが聞こえた。
それだけではない。明らかに穏やかではない人々のざわつきも聞こえてくる。
「何……?」
シーラはパッとソファーから立ち上がると、宮殿のアプローチ側にある窓へと駆けていった。ボドワンも一瞬呆気にとられたが、すぐに立ち上がり窓へ向かう。
するとそこには、目を見張る光景があった。
エグバート宮殿の正門から続く王都の大通りを、甲騎兵隊を先頭に歩兵隊、砲兵隊らまでもが隊列を組んで真っすぐにこちらへ進んできているのだ。その数はざっと数百人、いや千は越えているか、連隊並みである。
しかし何より驚くのは、先頭集団の旗手が掲げている旗だ。黄金と黒の二色に、冠を抱く鷲が描かれている。あれはまごうことなきヴァイラント王朝ワールベーク帝国の国章だ。
「ワ、ワールベーク帝国軍……!?」
驚きのあまりボドワンと並んで唖然としながら窓の外を眺めていると、部屋の外がバタバタと慌ただしくなった。帝国軍の進行といい、これはただごとではないと思ったシーラは踵を返し、部屋の外へと飛び出した。
すると廊下にいた廷臣や侍女らが、シーラの方を振り向いてサッと顔を青ざめさせる。
「ワールベーク帝国の軍隊がこちらへ向かっているのが見えたわ! きっとアドルフ様が私を迎えにきたのよ、アドルフ様に会わせてちょうだい!」
間違いない、アドルフはシーラを連れ戻しにきたのだ。それだけならばまだいいが、問題は彼が軍隊を引き連れてくるほど激怒しているということだ。
その怒りはシーラではなくフェイリン王国に向けられているのは明白だ。フェイリン側の対応次第では、王都で戦闘になりかねない。
それを諫めるためには自分が出ていかなければならないと思ったシーラは、宮殿の玄関ホールへ向かって駆けていこうとするが、その場にいた侍女や衛兵らに掴まって止められてしまった。
「なりません、シーラ様! どうか、マシューズ閣下のご命令があるまでお部屋でお待ちください!」
マシューズはせっかくここまで連れてきたシーラを易々と渡したくないのだろう。アドルフに会わせる訳にはいかないと、侍女らはシーラをなんとか部屋に押し戻そうとする。
暴れるシーラとそれを抑えようとする侍女らを見て、ボドワンが止めに入ろうとしたときだった。