軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
「シーラ陛下に無礼を働くんじゃない。その手を離せ」
落ち着いた男性の声が、その場を宥めた。
声の主の方を振り返ってみると、朱色の軍服に身を包み、髪と同じブルネットの口髭を蓄えた中年男性が立っている。
シーラはこの男を覚えていた。確か、マシューズと一緒に帝国に謁見にきた男、ノーランドだ。
侍女は慌ててシーラから手を離し、その場にいた衛兵らも彼にこうべを垂れる。
無言のまま見つめているシーラに、ノーランドは近くづくとニコリと微笑み恭しく一礼をして見せた。
「陛下、ご無礼を失礼いたしました」
「あ、あの、私は国王としてここにいる訳じゃありませんから、その呼び方はおやめください」
陛下と呼ばれ慌ててそれを否定したシーラに、ノーランドは戸惑う様子もなくスマートな所作で手を差し伸べる。
「それは、いずれあなた様がお決めになることです。さあ、アドルフ皇帝陛下がお越しになられます。謁見室に参りましょうか」
「アドルフ様に、会わせていただけるの……?」
てっきり顔も見せてもらえないものかと思ったのに、ノーランドの意外な言葉にシーラはキョトンとしてしまう。しかし。
「もちろんでございます。我々は決してあなたをさらってきた訳ではありません。シーラ様ご自身の意思を尊重してお連れしたのですから、臆すことは何ひとつございません」
笑みを湛えたまま告げられた言葉に、ハッとした。