軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
それから十年後、彼女はふたり目の子供を身ごもり出産した。
愛らしい女児の誕生にクラーラは喜び、生まれたばかりの愛娘に自分の紋章と娘の名を刻んだカメオのネックレスを贈った。
しかし、王女の誕生に国が湧いたわずか三ヵ月後――大き過ぎる悲劇が訪れる。
国王が馬車の事故で亡くなったのだ。シーラの洗礼式のために大寺院へ向かう道中で。
愛する夫を突然失い、幸福の絶頂から突き落とされたクラーラは正気を失った。
『この子の……この子のせいよ! この子が夫を地獄へといざなったのだわ! この娘はアッシュフィールド家の血を啜るために生まれてきた悪魔だわ!』
身分違いという大きな障害を乗り越え、良き王妃になるためにひたむきに邁進してきたクラーラにとって、愛する夫の喪失というものは心を壊すには充分だったのだろう。
やり場のない悲しみは憎しみという刃となり、まだ生まれたばかりの娘に向けられた。
それは違うと諫める臣下や侍女らもいたが、目に見えない力を信じる者もまだ数多くいた世だ。それに加え国王の急な崩御で王宮も惑乱していたのだろう。クラーラの言葉に賛同し、シーラを追放すべきだという声が多くあがった。
後から考えれば、このときのフェイリン王国は混乱を極めていたとベティは語る。
クラーラは必死だったのだ。夫の残したこの国を自分の手で守ろうと躍起になり、わずか十歳のカーティスを王座につかせ自分は摂政となり実質この国の最高権力者となった。
そしてフェイリン王国に災いを呼ぶ悪魔の子だとして、王都から遠く離れた国境にある森の教会にシーラを追放したのだった。
「止められなかったのです。あのときのクラーラ様は悲しみのあまり人の心を失ってしまい……、赤子であるあなたを王都から一番離れた場所へ隔離せよと……。あのときクラーラ様のご命令を止められなかった罪を、私は十八年間忘れたことはありません」
嗚咽につかえながらすべてを打ち明けるベティの言葉を、シーラはただ黙って聞いていた。
感情の整理がつかない。自分が父を死に追いやった悪魔の子だと捨てられた悲しみも、夫を深く愛し失い凶行に走った母の想いも、心のどこにどうやって受けとめていいか分からなかった。
母からもらったネックレスを手の中に握り込んで項垂れるシーラを、ボドワンは切なげに目を眇めて見つめる。
「けど……ならばどうしてクラーラ様は今さらシーラ様をワールベークとの政略結婚に駆り出そうとしたのです?」
尋ねたボドワンに、ベディはさらに苦しそうに眉根を寄せて答えた。
「クラーラ様は……ずっと心の底でシーラ様を恐れておりました。悪魔の子を生み捨てた呪いが、いつか自分に返ってくるのではないかと。摂政になったクラーラ様が影の国王と呼ばれるほど毅然とし、国を治め国力の拡大に努めてこられたのは、ご自分のしたことが過ちではなかったと証明するためです。けれど――」