軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
 
「ワールベーク帝国に大戦を仕掛けカーティス陛下を討たれたことで、その信念が崩れてしまったのですね」

ベティが詰まらせた言葉の続きを、ボドワンが続ける。

しかしベティは首を横に振ると、もっと驚くことを口にした。

「カーティス様は討たれたのではございません……自害なさったのです。戦争の敗北を目の前にして、その重責に耐えられず――『私は愚かな王であった。母の傀儡のまま敗北だけをこの国に刻むことしかできなかった』と残し、自ら毒を飲んで……」

驚愕の事実に、シーラもボドワンも耳を疑った。

フェイリン王国から国王を奪ったのはワールベーク帝国ではなかった。兄は自ら命を絶ち――いや、母の呪縛により死んだのだ。

「そのことを知ったクラーラ様は正気を失われてしまいました。亡き夫の志を受け継ぎ、国に尽くしてきた十八年間が間違っていたと、カーティス様の死によって証明されてしまったのですから」

抱えきれない衝撃と悲しみは、クラーラの心の奥底に封印していた恐怖を甦らせた。

敗戦とカーティスの死は、自分が十八年前に産み落とした悪魔の子の呪いだと思い込んだのだ。

「王都から遠く離れた国境とはいえ、この国にシーラ様を置いておいたことを、クラーラ様は激しく後悔なさいました。そして、講和条約にかこつけて政略結婚という名目で、シーラ様をワールベーク帝国へと押しつけたのです」

あまりにも残酷な仕打ちに、ボドワンは唖然とした。いくら心を病んでいたとはいえ、これが母親のすることだろうか。

しかしクラーラの浅はかな試みは、思わぬ事態を招くことになる。

第一王女であるシーラが政略結婚という表舞台に出てきてしまったことで、彼女に王位継承権を復権させなくてはならなくなったのだ。

フェイリン王国の規定では、王位継承権は男女関わらずアッシュフィールド家の嫡子が優先的に受け継ぐことになっている。ただし心身に問題がある場合は除外されるので、名目上は重病のため隔離扱いされていたシーラは継承権を剥奪されていた。

ところが王女は心身ともに健康で問題がないことが明らかになってしまったのだ。子を残さないままカーティスが亡くなってしまったことで、アッシュフィールド家の遠縁に継承されると思われていた王位継承権は、法王の判断のもとシーラへと返ってきた。

突如、王位を持つ少女が表舞台に現れたことにフェイリン王国が大きくざわついたのは、当然のことである。
 
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