軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
 
自分の政略結婚のあらましを聞いて、シーラはしばらく呆然としていた。

しかし、母の非人道的な仕打ちに嘆くよりも大きな喜びが勝っている。それは。

「……アドルフ様は、何も悪くなかったのね……」

アドルフはシーラに王位があることを知る前に、結婚に同意した。あくまで婚姻による両国の和平を求めた結果で、フェイリン王国の王位を奪おうとしたものではない。

そして何より、兄を手にかけたのはワールベークではなかったことに安心した。帝国は敵国と言えど王家を蹂躙するような真似はしなかったのだ。

安堵の息を吐くシーラに、ベティはさらに喜ぶことを語ってくれた。

「わたくしも、クラーラ様の供として条約交渉の場でおそばに控えておりました。そのとき、シーラ様が健勝でありながら十八年間も森の教会に隔離されていたことを知ったアドルフ陛下はたいへんに憤慨なさり、そして仰ったのです」

『この結婚で、俺はみっつのものを救う。ひとつ目は我が祖国ワールベーク帝国。ふたつ目は、権力拡大に目が眩んだ愚かな君主を持つ敗戦国フェイリン王国。そしてみっつ目は、いわれなき罪を押しつけられ十八年間も見捨てられ続けた哀れな王女をだ』

「アドルフ陛下はそのみっつを、必ず自分の手で幸福にすると誓われていました」

ベティの言葉を聞いて、シーラの瞳から大粒の涙がボロボロと溢れ出した。

アドルフがシーラに紡いできた言葉の意味が、そして真実を告げられずにきた意味が、ようやく全部分かった。

そこにどれほど真摯で誠実で慈悲深い愛が籠められていたことか。思い知ってシーラは感激のあまり言葉も出せない。

(アドルフ様は全部知っていたのね……、私が母に憎まれ見捨てられた哀れ子だということも、そのために帝国へ押しつけられた惨めな王女だということも。だから何度も私に『俺はお前を見捨てない』と仰ってくださったんだわ……)

そして残酷な真実が間違いなくシーラを傷つけると分かっていたから、すべてを打ち明けることをためらっていたのだろう。

きっと彼は、シーラが揺るぎない幸福を手に入れ、どんな過去を聞かされても負けないほどに強く成長する日を、待っていたに違いない。

それなのに迂闊にもマシューズの言葉を信じ、アドルフの優しさに背を向けた自分が情けなかった。

(アドルフ様……会いたい……。こんなにも深く私を愛してくださったあなたのそばを、私はもう一生離れたくない)

熱い涙を零し続けるシーラをボドワンは切なさの混じった笑顔で見つめ、「ご立派なお方ですね、アドルフ陛下は。とても敵いません」と独り言のように零した。
 
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