軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
水銀は薬や美容液としてもてはやされていたが、過剰摂取すると神経や脳に少しずつ悪影響をもたらすことが最近の医学研究で分かっている。
この男達はシーラを王と崇めながらも自分たちの操り人形とするために、彼女を生ける屍にしようとしていたのだ。
怒りと恐怖で、シーラもボドワンも身体が震える。絶対にこんな卑怯でおぞましい奴らの手になど落ちたくないが、状況は極めて危機的だ。
部屋の外の廊下は、すでにマシューズの命令を受けた衛兵達でいっぱいだろう。離宮を脱出することすら難しい。
もうすぐノーランドが二発目を撃つための準備を終える。今度はボドワンに銃口が向けられる番だ。
シーラは唇を噛みしめ、心で祈る。
(神様……、アドルフ様! どうか私を守って!)
そして後ろ手で椅子の背をそっと掴むと、大声で叫んだ。
「クーシー! ゴー!!」
シーラの合図で、ずっとソファーの影で身を伏せていたクーシーが、牙を剥いてノーランドに飛び掛かる。
「うわああっ!?」
大型狩猟犬に腕に食らいつかれ、ノーランドは銃を落としながらその場に倒れ込んだ。
その一瞬の混乱の隙をついて、シーラは手に持っていた椅子を思いっきり窓に向かって投げつける。
硝子の割れる派手な音がして、窓が粉々に砕け散った。
「今よ、ボドワン!」
窓枠に残った硝子が手足を傷つけるのも構わず、シーラは大きく風穴の空いた窓から身軽に外へと脱出した。
一瞬呆然としたボドワンもすぐに後を追う。
「な……! 衛兵! 何をしてるんだ! すぐにシーラ様を追え! それからさっさとこの犬を殺すんだ!」
驚きに固まっていたマシューズも我を取り戻し、すぐさま廊下にいた衛兵たちに命じた。
しかし窓の外から口笛が聞こえると、クーシーは衛兵たちが部屋の中に入ってくる前に、破れた窓から表へと飛び出していった。