軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
 
アドルフが彼の罪を咎め罰を与えていないか、気になる。

ボドワンは何度もシーラを守ってくれただけでなく、心からの友人だ。彼が恋情を抱いていたことは予想外だったけれど、不埒な真似などは一切されなかった。シーラが誰を想っていようと、彼はひたむきに励まし応援してくれたのだ。

そんな誠実な友人が自分のせいで罰を受けていてはたまらない。シーラはハラハラとした気持ちでアドルフに尋ねた。

「クーシーは少々疲れていたが、今はすっかり元気だ。この船に乗って、お前が目覚めるのを待ってる。お前がもっと元気になったら、共に甲板を散歩することを許してやろう」

クーシーの現状を、アドルフは淀みなく話してくれた。しかしボドワンについて話が及ぶと、わずかながらも表情に苦々しさが浮かんだ。

「ポワニャールの男は、別の船に乗せてある。お前をかどかわした罪は死刑にも値するが、あの男がエグバート宮殿からの脱出に力添えしたのも確かだ。断罪するにはもう少し話を聞く必要がある。ひとまず帝国へ連れていってからポワニャールの首相と話し合うことになるだろう」

とりあえず審判は保留のようで安心した。シーラはホッと息をついてから、アドルフに乞う。

「アドルフ様、どうかボドワンをお赦しください。彼はマシューズに騙されていたことを悔やみ、私をフェイリンへ連れ出したことをとても反省していました。それにボドワンがいなければ、私は真実を知ることも、マシューズ達の魔の手から逃げ出すこともできなかったはずです。どうか、ご慈悲を――」

必死に歎願するシーラの唇を、アドルフの人差し指が押さえて塞いだ。

何事かと目をパチクリさせていると、アドルフは実につまらなさそうな口調で言った。

「もういい。帝国に戻ってから、ことの経緯だけ書面に記して提出しろ。……お前が悲しむような結果にはならないようにする。だから、これ以上その男のことを一生懸命に語るな」

怒っている、というよりは不貞腐れているように見えるアドルフの態度に、シーラは不思議そうに瞬きを繰り返すばかりだった。

恋を覚えたての少女はまだ知らないのだ。自分より十歳も大人で理知的で冷静な皇帝も、可愛いやきもちをやくことがあるのだと。
 
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