軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
「わ……分かりました」
アドルフがそう命じるのだからと、とりあえず従順な返事をしておく。
ボドワンにひどい罰が与えられなければ、それでいい。アドルフの前で彼のことを語るのはやめようと思った。
そのかわり、報告の書類には最後に記しておこうと思う。どうかポワニャール語の講師を変更しないで欲しいというお願いを。
「それから、あの……」
次に聞きたかったことを質問しようとして、今度はシーラの方が言い淀む。
「……フェイリン王国と、お母様は……」
口にするだけで、胸が痛んだ。狂気の沙汰で悪魔と罵ってきた母の姿は、今でも悪夢のように思う。
いっそ眠っている間に忘れてしまえれば楽だったのに、どうしてかそれでも母のことは気になって仕方がなかった。
アドルフはしばらく押し黙る。おそらく言葉を選んでいるのだろう。
彼はシーラが深く傷つくことを危惧して、真実を告げられず苦悩していたほどだ。きっと今も、本当のことを知ってしまったシーラをどう慰めればいいか戸惑っているに違いない。
「……どちらも悪いようにはしない。心配するな。悪いのはマシューズやノーランドらの我欲を企んだ一部の執政だけで、フェイリン王国自体に罪はない。講和条約の条件は変更ないまま――つまりお前は、ワールベーク皇妃でありながら、フェイリン王国の象徴国王という訳だ。だからクラーラ王太妃も……今までと何も変わりない」
要はこの騒動が起きる前に戻ったということだ。
それはそれで安心もしたが、母との関係は二度と修復できないのだと思うと悲しくもあった。