軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
逞しい身体つきのアドルフに抱きすくめられると、小さなシーラの身体はスッポリと包まれてしまう。
身動きが取れなくなってしまい、おとなしく立ち尽くした後、シーラがそっとアドルフの背に腕を回そうとしたときだった。
「シーラ」
耳もとで、アドルフが低く囁いた。
けれどその声は威圧的ではなく、どこか切なくて力強い。
「……覚えておいてくれ。これは政略結婚だが、俺はお前を見捨てない。お前が俺の妻になったことを、絶対に後悔させない。忘れるな」
「…………はい」
見捨てないとはどういう意味だろうか。そもそも、自分はアドルフの子を生み育てた後はどうなるのか、考えたこともなかった。
アドルフがどうしてそんなことを言うのか、シーラには分からない。けれど、硬く抱きしめてくる腕が、誓いを紡ぐ声が、温かくて、強くて、切なくて。シーラはその誓いを忘れないように胸に深く刻んだ。
ゆっくりと腕をほどいたアドルフの顔を見ると、彼はもう、つらそうな表情はしていなかった。シーラはホッと息を吐く。
「アドルフ様」
心から安堵したせいだろうか、自然と綻ぶ顔のまま彼を見上げて言う。
「私、教会に帰りたいけど、前よりは帰りたくなりなりました。だって教会に帰ってしまったら、アドルフ様と毎日会えなくなってしまうもの」
素直な言葉で告げたシーラに、アドルフは一瞬キョトンとする。
そしてフッと目もとを和らげると、「そうか」と笑って、シーラの頭を大きな手で撫でてくれた。
アドルフがこんな風に笑ってくれたのも、頭を撫でてくれたのも、初めてだ。
いつだって冷静な彼の笑顔は優美で、思いのほか可愛くて、どうしてかシーラの頬がボゥっと熱くなる。
顔が熱くて、なんだか恥ずかしくて、けれど嬉しくてたまらない。初めて抱く不思議な気持ちだったけれど、シーラはそれがとても大切な宝物のような気がした。