軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
 
大切そうにクーシーが守っていたのは、狩った兎だった。

教会にいた頃、クーシーは時々森で動物を狩ってはシーラのもとに持ってきてくれたのだ。

あの頃は食料が増えるのがありがたかったから、大喜びでクーシーを褒めていた。

昔と今で事情が変わって、もう狩りは必要ないなど犬のクーシーには分からない。

動物の気配がする森があればそこは狩場で、獲物をとってくればシーラが喜んでくれると彼は今でも信じているのだ。そしてそれは狩猟犬にとって最高の喜びでもある。途中で想定外の敵が現れて戦うことになっても、シーラへの贈り物を死守するほどに。

シーラはクーシーの身体を抱きしめながら、たくさん後悔した。こんなことになるのなら、クーシーを宮殿の狩猟小屋に入れてもらえばよかったと。森の近くなんかうろつかなければよかったと。

たくさん後悔して、泣いて、それから自分よりずっと重たいクーシーの身体をショールで包んで引きずりながら、樹の根元まで運んだ。

枝が幾重にも重なっているニレの根元はいくらか雨が凌げたが、すでにずぶ濡れになっている身体からはどんどん熱が逃げていく。

「寒い……」

クーシーと身を寄せ合うが、冬の冷たい空気は容赦なくふたりを包む。このままではクーシーの体力が心配だ。大怪我をしているうえ体温が下がり過ぎたら、死んでしまうかもしれない。

「ごめんね、クーシー。ごめんね……」

シーラは冷たい雨と空気から庇うようにクーシーの身体を抱きしめた。怪我を治してあげることも、宮殿まで運んであげることもできない自分が、情けなくて悔しい。

助けを呼びにいきたくても、だいぶ森の奥へと入り込んでしまった。雨も降って視界も悪い中、動き回るのは危険だ。それに、弱りきっているクーシーを雨の中置き去りにすることはできない。

せめて、雨がやんでくれたら。そう願いながらどれくらい過ごしただろうか。

雨はやむどころか、吐く息が白くなるほど気温は冷え込んできた。
 
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