軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
(……なんか、頭ボーっとする。手がちゃんと動かない……)
自分の身体が震え、意識が朦朧としてきていることにシーラが気づいたときだった。
パシャっと、水の張った地面を踏みしめる音が、すぐ近くで聞こえた。
シーラは音のした方を見ようとするが、身体がかじかんでしまって上手く動かせない。野犬だったら逃げなくてはと、気持ちばかりが焦り鼓動が不安に早まる。
けれど次の瞬間、目の前までやって来てシーラの頬にふれたのは、大きくて温かい手だった。
驚いたシーラがわずかに首を上げ、ぼやける視界を覚まそうとパチパチと瞬きを繰り返す。すると頭の上から、ハァッと大きなため息と「……よかった……」と呟く安堵の声が聞こえた。
「……アドルフ、様……?」
聞き覚えのある声、ため息。そしてだんだんとはっきり見えてきた姿に、シーラが掠れる声で呼びかけると、頬を撫でていた手がグイッと身体を抱き寄せてきた。
力強く抱きしめられて痛いぐらいだったけど、シーラは嫌だとはこれっぽっちも思わない。ただ、ただ、心の底から安心感が湧いてきて、せっかく晴れてきた視界が涙で曇る。
「アドルフ様、あのね……」
聞いて欲しいことがいっぱいある。クーシーを助けて欲しい、どうしてこんなことになったのか話を聞いて欲しい、悪いのは自分だからどうかクーシーを叱らないで欲しい。
けれど何より。
「……ごめんなさい……」
アドルフがどれほど心配してくれていたか、抱きしめて微かに震えている腕から伝わってくる。こんなにも心配をかけたことを、一番に謝りたかった。
アドルフは何も言わず、抱きしめたままシーラの頭を撫でてくれた。
そして身体を離すと、自分の着ていた外套をシーラに着せてから、今度はクーシーの様子を見た。
「……野犬にやられたか」